ペロブスカイト太陽電池とは?次世代太陽光発電の革命的技術を徹底解説

はじめに:太陽光発電の新時代がやってくる

太陽光発電を検討されている皆さんに、まったく新しい選択肢が登場しています。それが「ペロブスカイト太陽電池」です。

従来のシリコン系太陽電池では設置が困難だった場所にも設置でき、軽くて曲げられるという革命的な特性を持つこの次世代太陽電池は、2025年から本格的な実用化が始まろうとしています。

この記事では、太陽光発電システムの導入を検討している方に向けて、ペロブスカイト太陽電池の基本的な仕組みから最新の技術動向、実際の設置事例まで、わかりやすく解説します。


ペロブスカイト太陽電池の基本知識

ペロブスカイト太陽電池とは

ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト結晶構造を持つ化合物を発電層として用いた太陽電池です。2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らによって発明された日本発の技術で、従来のシリコン系太陽電池とは全く異なる特性を持っています。

「ペロブスカイト」という名前の由来 この技術名は、特定の結晶構造の名前から来ています。ロシアの鉱物学者ペロフスキー(Perovski)にちなんで名付けられた結晶構造で、その独特な構造が優れた発電特性を生み出します。

発電の仕組み

ペロブスカイト太陽電池は「発電層」「電極」「正孔輸送層」「電子輸送層」で構成される5層のサンドイッチ構造になっています。太陽光が当たると発電層で電子と正孔が発生し、それぞれが別々の輸送層を経由して電極に到達することで電流が生じます。

この仕組み自体は従来の太陽電池と似ていますが、使用する材料と製造方法が大きく異なるため、まったく新しい特性を実現できています。


ペロブスカイト太陽電池の5つの特徴

1. 軽量・薄型でフレキシブル

重量比較表

太陽電池タイプ重量厚さ
シリコン系太陽電池62.5g/W約30-40mm
ペロブスカイト太陽電池2.5g/W以下約0.031mm

ペロブスカイト太陽電池は、シリコン系と比較して重さが約25分の1、厚さは約100分の1という驚異的な軽さを実現しています。

実用面でのメリット

  • 工場や倉庫の耐荷重が低い屋根にも設置可能
  • ビルの外壁面への設置が可能
  • 曲面への設置にも対応
  • 運搬コストの大幅削減

2. 低照度でも高効率発電

ペロブスカイト太陽電池は中〜低照度の日射や蛍光灯、LEDといった室内光でも高効率で発電が可能で、従来型に比べて低照度の光を2倍以上に出力できるという特性があります。

実用例

  • 曇りの日でも安定した発電
  • 室内設置での発電(IoTデバイス用途)
  • 早朝・夕方の発電時間延長
  • 北側屋根でも一定の発電量確保

3. 優れた変換効率

変換効率の進歩

変換効率備考
2009年3.9%初期開発段階
2023年25%研究レベル最高効率
2024年26.7%セルレベル最高記録

当初は変換効率3%程度でしたが、現在は研究が進み、セルの発電効率の最高記録ベースで26.7%と、従来の結晶シリコン太陽電池に匹敵する変換効率が実現されています。

4. 製造コストの大幅削減

ペロブスカイト太陽電池の製造コストは、開発が進んで量産されるようになればシリコン太陽電池の5分の1から3分の1程度になると見込まれています。

コスト削減の理由

  • 材料費:シリコン系の約20分の1
  • 製造工程:塗布・印刷技術で簡素化
  • 設備投資:既存の印刷設備を活用可能
  • 輸送費:軽量化により大幅削減

5. 日本の資源を活用

ペロブスカイト太陽電池の主な原料であるヨウ素は、日本の生産量が世界シェアの約3割を占めており、世界第2位(第1位はチリで約6割)です。これにより、サプライチェーンの安定確保と経済安全保障上のメリットがあります。


現在の課題と解決への取り組み

耐久性の課題

現状の課題 現状、ペロブスカイト太陽電池の寿命は5年ほどとされており、今後実用化に向けてシリコン系太陽電池と同等の耐久性が求められます。

解決への取り組み 積水化学が2025年までに20年相当の耐久性を実現する方針を発表しており、20年の耐久性が実現できれば現在主流のシリコン型太陽電池に匹敵する耐用年数が実現できます。

大面積化の技術的課題

ペロブスカイト太陽電池は面積が大きくなると性能にばらつきが出るのですが、今後も各社の開発が進むことで性能向上が見込まれます。

技術開発の進展

  • 印刷技術の精度向上
  • 均一な膜形成技術の確立
  • 品質管理システムの高度化

環境・安全性の課題

課題の内容 ペロブスカイト太陽電池の主な原料になる「ヨウ化鉛」や「ヨウ化メチル」は、人体に対して有害性があり、安全性に問題がある点も課題です。

対策の取り組み

  • 完全封止技術による漏出防止
  • リサイクルシステムの構築
  • 無鉛材料の研究開発

実用化・量産化の最新動向

2025年:実用化元年

国内外で量産体制を整える企業が増えており、ペロブスカイト太陽電池が本格的に市場に出始めるのは2025年ごろが最短になると考えられています。

主要企業の動向

企業名取り組み内容時期
積水化学工業フィルム型の実用化・事業化2025年〜
パナソニックガラス建材一体型の実証実験実施中
東芝大面積フィルム型の開発実証段階
アイシン自社工場での実証実験2025年〜

国内量産計画

積水化学工業が2025年1月に新会社「積水ソーラーフィルム株式会社」を設立し、大阪府堺市で量産化を開始、2030年には年産1GWの生産規模拡大を目指している状況です。

量産化スケジュール

  • 2025年:量産開始(既存施設活用)
  • 2027年:年産100MW規模の新工場稼働
  • 2030年:年産1GW規模に拡大

海外企業の動向

先行する海外企業

  • ポーランド:サウレ・テクノロジーズが量産開始
  • 中国:複数企業が商業生産準備中
  • イギリス:オックスフォード・フォトボルテイクスが開発進行

中国のトリナ・ソーラーは、ペロブスカイト太陽電池とシリコン系太陽電池を接合した「タンデム型」で出力808ワットを達成し、面積3.1平方メートルの実用サイズにおいて800ワット超えは世界初という成果を上げています。


実際の設置事例と実証実験

建築物一体型の事例

オフィスビル外壁 積水化学工業は2023年4月、株式会社NTTデータと共同で、国内ではじめて建物外壁にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置する実証実験をスタートしました。

主な設置場所

  • オフィスビルの外壁面
  • 工場・倉庫の屋根
  • 公共施設(避難所となる体育館等)
  • 住宅のバルコニー部分

交通インフラでの活用

鉄道駅での実証 東急田園都市線・青葉台駅正面口改札前自由通路でのペロブスカイト太陽電池の実証実験において東芝がペロブスカイト太陽電池を提供しています。

万博での展示

大阪・関西万博やJヴィレッジなどで実証実験が行われ、従来のシリコン型太陽電池は置けなかった場所での活用が計画されており、実際の性能を多くの人が確認できる機会となっています。


タンデム型太陽電池:さらなる高効率化

タンデム型とは

ペロブスカイト太陽電池は弱い光でも発電する性能を持ち、シリコン系は太陽光に対する発電が強み。二つの電池を合体したタンデム型太陽光パネルは出力が増加し、1枚で生み出せる電気が増える技術です。

世界最高効率の達成

最新の効率記録

開発機関・企業効率
中国企業33.9%2023年
サウジアラビアKAUST33.2%2023年
中国トリナ・ソーラー808W(実用サイズ)2025年

中国の太陽光発電企業が独自開発した結晶シリコン・ペロブスカイト積層型太陽電池が33.9%の変換効率で世界記録を更新しており、タンデム型の実用化により、さらなる高効率化が期待されています。


政府の支援策と戦略

次世代太陽電池戦略

経済産業省は2024年11月に、ペロブスカイト太陽電池の普及に関して「次世代太陽電池戦略」を公表し、2040年までに国内約20GW、海外500GW以上の導入を見込み、2040年時点での価格は10円/kWh〜14円/kWhを目指していると発表しました。

政府目標

  • 2040年導入目標:国内20GW、海外500GW
  • 価格目標:10-14円/kWh(2040年時点)
  • 実用化目標:2025年実用化開始

研究開発支援

GI基金の活用 積水化学は2020年度の第3次補正予算において造成されたGI基金(グリーンイノベーション基金)を活用して軽量フレキシブルペロブスカイト太陽電池の開発・量産技術確立に取り組んでいます。

支援内容

  • 研究開発費の補助
  • 実証実験への支援
  • 量産技術確立への助成
  • 国際連携の促進

設置を検討する際のポイント

適用場所の選定

最適な設置場所

  1. 耐荷重制限のある屋根
    • 工場・倉庫の軽量屋根
    • 住宅の既存屋根(追加設置)
    • 老朽化した建物の屋根
  2. 曲面や特殊形状
    • ビルの曲面外壁
    • ドーム型建築物
    • 自動車のボディ(将来的)
  3. 従来設置困難な場所
    • ビルの垂直外壁
    • 橋梁などのインフラ
    • 移動体(車両、船舶等)

蓄電池との組み合わせ

相性の良い蓄電池システム

  • 小容量分散型:軽量特性を活かした小規模システム
  • ポータブル蓄電池:災害時の可搬性重視
  • 既存システム拡張:既設の蓄電池に追加設置

発電特性の考慮点

  • 低照度でも発電するため、蓄電池への充電時間が長い
  • 軽量なため、蓄電池設置場所の制約が少ない
  • フレキシブルなため、蓄電池近くへの設置が容易

コスト・経済性の分析

発電コストの見通し

現在の開発目標

項目目標値時期
製造コスト15円/W実用化時
発電コスト10-14円/kWh2040年
寿命20年2025年目標

量産ができて寿命が20年とすると発電コストが6〜7円/kWhになる見通しもありますという試算もあり、将来的には非常に経済的な発電手段となる可能性があります。

従来システムとの比較

初期コスト比較(予測)

システム初期コスト設置工事費総コスト
シリコン系100万円30万円130万円
ペロブスカイト系(将来)60万円15万円75万円

メンテナンスコスト

  • 軽量のため点検・交換作業が容易
  • フレキシブルのため部分交換が可能
  • 設置場所の多様化により、アクセス性が向上

将来の展望と可能性

設置場所の革命的拡大

新たな設置可能場所

  1. 建築物
    • あらゆる外壁面
    • 屋根の全面活用
    • 窓やガラス面(透明型開発中)
  2. インフラ施設
    • 道路の遮音壁
    • 橋梁の側面
    • トンネル坑口部
  3. 移動体
    • 自動車のボディ全面
    • 電車の車体
    • 船舶の甲板・側面

IoT・スマートシティとの連携

小型機器への応用

  • IoTセンサーの電源
  • スマートメーターの自立電源
  • 街路灯の電源システム
  • 災害時の非常用電源

農業・漁業での活用

アグリフォトボルタイクス

  • ビニールハウスの被覆材として
  • 農作業機械への搭載
  • 農業用IoTセンサーの電源

水上・海上での利用

  • 養殖場の浮体構造物
  • 海洋観測ブイの電源
  • 小型漁船の補助電源

技術的課題と今後の研究開発

材料技術の進歩

無鉛化の研究 宮坂氏が開発した無機材料だけのペロブスカイト太陽電池は400℃まで耐えられるが16〜17%止まりで、無機だけではまだハイブリッドと差があり、今後の研究の柱のひとつとなっています。

耐熱性の向上 太陽電池上で陰になった部分で発電した電気が逆流して回路上でより大きな電流が発生し、熱が出てペロブスカイト周辺の材料に影響する問題があり、実用化はまだ先になる可能性があります。

製造技術の高度化

自動化システムの導入 産業技術総合研究所は、世界初となるペロブスカイト太陽電池自動作製システムを開発し、基板電極の洗浄からペロブスカイト層やその他の層の積層、セルの分離までを全自動で行うことで、作業誤差を排除し、太陽電池の性能ばらつきを抑制しています。

品質管理技術

  • リアルタイム品質監視
  • AI活用による不良品検出
  • 製造条件の最適化

まとめ:ペロブスカイト太陽電池が変える太陽光発電の未来

ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池では不可能だった軽量・フレキシブル・低コストという特性により、太陽光発電の常識を根本から変える可能性を秘めています。

導入を検討すべき方

特に適している用途

  • 耐荷重に制限のある建物をお持ちの方
  • 建物の外壁面を有効活用したい方
  • 従来の太陽電池では設置困難な場所への導入を検討している方
  • 将来性の高い技術に投資したい方

今後のスケジュール

短期(2025-2027年)

  • 実用化製品の市場投入
  • 初期需要の創出
  • 価格の段階的低下

中期(2027-2030年)

  • 量産効果によるコスト削減
  • 設置場所の多様化
  • 蓄電池との最適化

長期(2030年以降)

  • 従来型との価格競争力確立
  • 新市場の本格開拓
  • グローバル展開の加速

最後に

ペロブスカイト太陽電池は、まさに太陽光発電の新時代を切り開く革命的技術です。2025年からの本格的な実用化開始により、これまで諦めていた場所での太陽光発電が現実のものとなります。

太陽光発電システムの導入を検討されている方は、従来のシリコン系太陽電池に加えて、このペロブスカイト太陽電池という選択肢も視野に入れて検討されることをお勧めします。

技術の進歩は日進月歩ですが、日本発のこの革新的技術が、私たちの暮らしにどのような変化をもたらすか、今後の展開に注目していきましょう。


この記事の情報は2025年6月時点のものです。技術開発の進歩により、内容が変更される場合がありますので、最新情報については各メーカーや研究機関の発表をご確認ください。