はじめに:なぜ台風対策が重要なのか
太陽光発電システムを検討される皆さん、設備を長期間安全に運用するためには台風対策が不可欠です。近年の異常気象により、例年、暴風や豪雨をともなう台風が、太陽光発電設備に甚大な被害をもたらしている状況があります。
この記事でわかること
- 台風による太陽光発電への具体的な被害と対策
- 耐風圧基準とJIS規格の詳細解説
- 設置前・設置後の台風対策方法
- 保険の種類と選び方のポイント
- 被害発生時の対応手順
本記事では、太陽光発電の初心者の方でも理解しやすいよう、専門用語を避けながら実践的な対策をご紹介します。
1. 台風が太陽光発電に与える被害の実態
統計データから見る被害状況
令和2年に公表された「平成30年度 電気保安統計」によると、太陽光発電設備の事故被害は以下のような分布となっています。特に風雨と山崩れ・雪崩による事故件数が多く、台風が原因となったものも相当数含まれています。
平成30年度の台風被害実績
- 平成30年度には台風21号、24号が多くの太陽光発電設備に被害をもたらし、これら2つの台風により50kW以上の設備だけでも26件の被害が報告されました
主要な被害パターン
台風による太陽光発電の被害は、以下の4つのパターンに分類できます。
被害タイプ | 被害内容 | 主な原因 |
---|---|---|
パネル飛散 | 強風によりパネルが架台から外れ飛散 | 施工不良、ボルトの緩み |
架台倒壊 | 架台そのものが風圧に耐えられず倒壊 | 基礎強度不足、設計不良 |
浸水・水没 | 豪雨による冠水でパワコンが水没 | 設置場所の選定ミス |
飛来物衝突 | 風で飛ばされた物体がパネルに衝突 | 周辺環境の未配慮 |
具体的な被害事例
事例1:大阪市住之江区の大型発電所 平成30年台風21号の上陸にともなう強風によって、太陽光発電パネルが架台から引きちぎられた様子です。発電出力6,500kWの設備で、設計上の数値(34m/s)を大幅に超えたために破損したものとられており、一部破損した太陽光発電パネルから発火する現象も確認されています。
事例2:大阪市此花区の地上設置型発電所 発電出力が9,990kWある地上設置型の太陽光発電設備(大阪市此花区)で、太陽光発電パネルを3万6,480枚設置していましたが、全体の4割近いパネルが破損しました。
2. 太陽光発電の耐風圧基準とJIS規格
現行の耐風圧基準
太陽光発電システムの耐風圧性能は、厳格な国家規格によって定められています。
JIS規格による基準値
- パネル耐風圧:JIS C 8990で定められており、耐風圧荷重は2,400Paに耐えうる設計となっています。風速に換算すると、毎秒62メートルになります
- 取付工事基準:JIS C 8955という規格で基準が定められており、地域によって基準風速が規定されており、その範囲で設置可能
地域別基準風速
基準風速とは、「建築基準法で定められており、各地域毎に平均的な地形の地上の高さ10mにおける50年に1度の確率で発生する最大風速」を言います。
地域 | 基準風速 | 特記事項 |
---|---|---|
沖縄県・鹿児島県南部 | 40m/s超 | 最も厳しい基準 |
その他の地域 | 30m/s台 | 一般的な基準 |
メーカー独自の強化基準
多くのメーカーは、JIS規格を上回る独自基準を設定しています。
主要メーカーの耐風圧基準
- シャープでは、取り付け工事の耐久性を地上高15m・風速毎秒60メートルにも耐えうる強度としています
- 各メーカーの施工基準では風速毎秒60mに耐えられる仕様になっていることが多いですが、風速毎秒60mとは程度の強風なのか言えば、車が吹っ飛ぶくらいの風の強さです
3. 設置前の台風対策 – 計画段階での重要なポイント
ハザードマップの活用
太陽光発電設備の設置前には、必ずハザードマップを確認しましょう。
確認すべき項目
- 洪水ハザードマップ:河川氾濫のリスク
- 土砂災害ハザードマップ:土砂崩れの危険性
- 高潮ハザードマップ:沿岸部の浸水リスク
- 過去の台風被害情報:その地域の災害履歴
適切な設置場所の選定
避けるべき立地条件
- 河川や沢の近く(氾濫・土砂流入リスク)
- 海抜の低い土地(高潮・冠水リスク)
- 急傾斜地(土砂崩れリスク)
- 強風の通り道となる場所
推奨する立地条件
- 排水性の良い高台
- 周辺に飛来物となる可能性のある物がない場所
- 地盤が安定している場所
信頼できる施工業者の選定
台風対策において、施工品質は極めて重要です。
業者選定のチェックポイント
- PV施工技術者がいる施工店を選ぶのもおすすめです
- PV施工技術者とは、太陽光発電協会が実施する学科試験、実技試験をクリアした際に認定される資格
- メーカー指定の施工研修を受けた技術者が在籍
- 過去の施工実績と品質管理体制
4. 設置後の台風対策 – 定期メンテナンスの重要性
定期点検のチェックポイント
経済産業省推奨の点検項目 経済産業省では点検のチェックポイントを挙げています:
- 電気設備の技術基準適合確認
- 架台・基礎の強度確認
- 構造、強度に影響する接合部にゆるみや錆、破損がないことを確認
- パネル固定状況の確認
- 太陽電池パネルの架台への接合部にゆるみや錆、破損がないことを確認
ボルトの増し締め点検
経年によるボルトの緩みを防止するために定期的な増し締め点検が有効であるとされています。
点検頻度の目安
- 住宅用(10kW未満):年1回以上
- 産業用(10kW以上50kW未満):年2回以上(法定点検)
- 高圧(50kW以上):年2回以上(法定点検)
台風前の事前対策
台風接近時の対応手順
- 気象情報の確認:進路と強度の把握
- 周辺の飛来物確認:植木鉢、看板等の固定・撤去
- 排水設備の点検:詰まりの除去
- 緊急連絡先の確認:施工業者、保険会社の連絡先
5. 台風被害を補償する保険の種類と選び方
太陽光発電向け保険の全体像
太陽光発電の台風対策として、適切な保険への加入は不可欠です。太陽光発電の保険は大きく分けて3種類に分類されます。
火災保険・動産総合保険
普通火災保険の特徴
- 補償範囲:火災を中心に、落雷や台風、水災などで、保険対象に損害が生じた際に保険金が受け取れる保険
- 保険料目安(50kW):年間1.5万~2万円程度(2024年10月改定前)
- 注意点:2024年10月から火災保険料が平均で約13%値上げされました
動産総合保険の特徴
- 補償範囲:事業用の什器や備品、機械や商品などを対象とした保険です。破損や盗難、自然災害、事故などによる損害を補償する保険
- 保険料目安(50kW):年間3万~4万円程度
- 火災保険との違い:より幅広い補償範囲
2024年保険料改定の影響
大幅な保険料値上げ 2024年10月から、太陽光発電の保険料が大幅に引き上げられます。火災保険は約2倍、休業損害補償は約6倍に上昇します。
保険種類 | 改定前 | 改定後 | 値上げ率 |
---|---|---|---|
火災保険 | 1.5-2万円/年 | 3-4万円/年 | 約2倍 |
休業損害補償 | 0.6-0.7万円/年 | 4-4.2万円/年 | 約6倍 |
値上げの背景 この背景には、台風や豪雨など自然災害の増加と、ケーブル盗難の頻発が挙げられます。
地震保険
地震に特化した補償で、火災保険とセットでの加入が必要です。
地震保険の特徴
- 地震による火災や地震による損壊だけではなく、噴火や津波による埋没や流出も補償対象
- 保険料:年間6,000円〜10,000円程度が相場
- 加入率:加入率は低圧太陽光発電であれば5~6%とかなり低くなっています
施設所有者賠償責任保険
第三者への損害を補償する重要な保険です。
補償内容
- 自然災害や太陽光発電設備の管理不備や構造上の欠陥などが原因で、他人にケガをさせたり他人の建物や物を壊したりなど、第三者に被害を与えてしまった場合に備える保険
- 保険料目安(50kW):年間5,000円程度
具体的な適用例
- 太陽光発電のパネルが強風にあおられて飛散し、人や建物に損害を与えてしまったケース
- 設備の火災が隣家に延焼した場合
休業損害補償保険
発電停止による売電収入の損失を補償します。
補償内容
- 太陽光発電所が自然災害や事故で損傷し、発電停止や休業状態となった場合に、復旧までの失われた売電収入を補償
- 対象外:出力抑制による損失は事故ではないため、売電金額が失われても補償されない
6. メーカー保証では台風被害は対象外
メーカー保証の限界
多くの方が誤解していますが、メーカー保証は停電や自然災害による損失を対象としておらず、ここまでにご説明したような台風被害への対策として機能しません。
メーカー保証の対象
- 製品の製造不良
- 出力性能の保証
- 初期不良による交換
メーカー保証の対象外
- 台風による物理的損傷
- 浸水被害
- 飛来物による破損
- 第三者への損害
自然災害補償オプション
一部メーカーでは、有償で自然災害補償を提供しています。
オプション補償の特徴
- 追加費用で加入可能
- 補償期間が限定的(通常10年程度)
- 補償範囲が限定的な場合が多い
7. 住宅用vs産業用の台風リスクの違い
住宅用太陽光発電の台風対策
住宅用はJIS規格にのっとって、秒速60mの風にも耐えられる施工にしなければなりません。
住宅用の優位性
- 厳格な設置基準
- 屋根一体型による安定性
- メーカー指定施工の徹底
産業用太陽光発電のリスク
産業用の太陽光発電に設置基準の規定がないため、施工主に任せられているのが現状です。
産業用のリスク要因
- 明確な設置基準の不在
- 施工品質のばらつき
- 野立て設置による風害リスク
8. 台風被害発生時の対応手順
即座に行うべき安全対策
台風被害が発生した場合、二次被害防止が最優先です。
緊急時の対応手順
- 電源の遮断:まずは、状況を確認して電源を切りましょう
- 発電停止措置:太陽光発電はたとえ故障していても、パネルが日光に当たっている限りは発電の可能性があるため、シートをかぶせて発電をしないようにします
- 立入禁止区域の設定:破損パネル周辺への立ち入り禁止
- 関係者への連絡:施工業者、保険会社への連絡
感電事故の防止
水没パネルの危険性
- 水没したソーラーパネルに触れることで、感電する危険性もあるだろう
- 復旧作業は必ず専門業者に依頼
- 素人による接触は絶対に避ける
保険請求の手続き
必要な書類と手順
- 被害状況の写真撮影(詳細な記録)
- 保険会社への事故報告
- 修理見積書の取得
- 被害状況報告書の作成
9. 今後の台風リスクと対策の展望
気候変動による台風の変化
近年の気候変動により、台風の特徴が変化しています。
台風の変化傾向
- 大型化・強力化の進行
- 発生頻度の増加
- 進路の予測困難化
技術的対策の進歩
新技術による台風対策
- より強固な架台システムの開発
- 耐風圧性能の向上
- IoTを活用した遠隔監視システム
規制・制度の強化
今後予想される制度変更
- 資源エネルギー庁の事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)に保険※への加入努力義務が明示されました
- より厳格な設置基準の導入
- 定期点検義務の強化
まとめ:太陽光発電の台風対策は「予防」が最重要
重要ポイントの振り返り
設置前の対策
- ハザードマップによるリスク評価
- 信頼できる施工業者の選定
- 適切な設置場所の選択
設置後の対策
- 定期的なメンテナンス実施
- 適切な保険への加入
- 台風前の事前点検
保険の活用
- 火災保険・動産総合保険による設備補償
- 施設所有者賠償責任保険による第三者補償
- 休業損害補償による収入補填
投資回収への影響を最小化
太陽光発電は長期間の投資です。台風被害により設備が損壊すれば、投資回収計画に大きな影響を与えます。適切な台風対策により、安定した発電事業を継続することが可能となります。
最後に
台風対策は「備えあれば憂いなし」の典型例です。初期投資時に適切な対策を講じることで、長期にわたって安心して太陽光発電を運用できます。特に保険については、2024年の大幅値上げを受けて、加入のタイミングと内容の見直しが重要となっています。
太陽光発電の台風対策でご不明な点がございましたら、必ず専門業者にご相談ください。適切な対策により、安全で収益性の高い太陽光発電事業を実現していきましょう。
参考資料
- 経済産業省「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構「平成30年度 電気保安統計」
- JIS C 8955「太陽電池アレイ用支持物の設計用荷重算出方法」
- JIS C 8990「太陽電池モジュール安全設計基準」